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楽器に音域があるように、人の声にも声域があります。ピアノでいえば左側の端の鍵盤が最も音が低く、右側に行くほど音が高くなり、右側の端の鍵盤が最も音が高くなります。ピアノの音域はこの高低の範囲を指します。声の音域を声域と呼び、一般的な大人の場合は1オクターブから1オクターブ半程度と言われます。音の高低は声帯の振動数で決まるとされ、振動数が増えると音が高く、振動数が減少すると音が低く聞こえます。普通、女性や子どもの声は高いことが多く、男性の声は低いことが多いです。
赤ちゃんの声は音域と言えるような高低差がないですが、成長するにつれ、体が大きくなるので声道が長くなり、会話力も向上するため、低音域が広がります。第二次性徴の頃にはすでに2オクターブ近くにまで音域が広がります。第二次性徴は変声時期で、特に男性は声帯の形状が大きく変わるため、基本周波数が大幅に低下し、低音になります。第二次性徴を過ぎてからは声域に目立った変化はなくなりますが、ヴォイストレーニングや声楽の訓練を積み、発声技術を向上させれば、さらに音の高低の範囲を広げることはできます。
声域は生理的なものと声楽的なものに大別され、生理的なものは泣き叫んだり、奇声を発したりする声も含むので、声楽的なものより音域が広がります。声楽的なものの場合は自分でコントロールできる範囲であることが重要で、言葉が明瞭に聞こえない高さだったり、一定の高さで音量がダウンしてしまったりすると意味がありません。声の高さや低さ、音色によって種類分けしたものを声種と呼び、声楽の世界では声域と声種はセットで扱われることが多いです。声楽では6種類に声域が分けられ、それぞれ特徴的な音色があります。
6種類に分けられた声楽の声域を音の高い順番から並べると、ソプラノ、メゾソプラノ、アルトとなり、すべて女声になります。クラシック音楽での声楽家個人の音域を表す呼称となり、歌劇オペラではその呼称によって役柄のイメージがある程度決められます。高声のソプラノは透明でクリアな響きがあり、華やかな印象を与える特徴があります。お姫さまや村娘など若い女性や少女の役が多く、他には妖精や女神など神秘的な役どころが多いです。
中声のメゾソプラノは幅広く豊かな音色と音の響きが特徴で、やさしい包容力があります。少女や若い女性ではなく、大人の女性や母親を演じることが多く、ときには男性を誘惑するような役どころも演じます。低声のアルトは落ち着いた豊かで安定感のある音の響きが特徴です。メゾソプラノと同じく大人の女性を演じることが多く、その他に魔女や侍女を演じることもあります。女声とされていますが、美男子の青年の役を演じることもあります。
合唱におけるパートの種類でも女声はソプラノ、メゾソプラノ、アルトで分けられます。合唱でのソプラノは突き抜けるような透明なトーンと、輝きや表現力を持つパートです。メゾソプラノはハーモニーの重要な要で、ソプラノとアルトの間で音程やバランスを取るのが難しいですが、合唱の柔らかな響きを作る要となるパートです。アルトは低音を充実させるパートで、音の厚みや幅を作り、安定感のある響きにするという特徴があります。
6種類に分けられた声域のうち、男声を音の高い順から並べるとテノール、バリトン、バスとなります。歌劇オペラの役どころで言えば、テノールは若々しく、エネルギーと華やかなイメージがあり、王子様や純粋な青年の役などに抜擢されることが多いです。基本的にヒロインと恋愛関係に関わるような役が多いです。女声の高音であるソプラノは高音部を裏声で出しますが、男声の高音を出すテノールは地声で出すという違いがあります。
一方で低音を出すバスはとても重く、そして深く響く男声で、信頼感のあるどっしりした印象になります。オペラの役どころでは王様のような威厳のある重厚な役や、存在感のある悪役にも適しています。ときには滑稽や役どころを演じることもあります。バリトンはテノールとバスの中間域の声で、テノールのような繊細さとバスのようなどっしりした力強さを同時に持つ特徴があります。オペラの役どころでは渋さと格好よさを併せ持つような中年、父親の役が似合います。バリトンはさらに音域で分類し、高音をハイバリトン、低音をバスバリトンと呼ぶこともあります。
また、同じ種類の楽器で音域が異なる場合の区分にも使用され、例を挙げるとバリトンサクソフォーンがあり、音域が高いとテノールサクソフォーンと呼ばれます。男性は本来、高い声が出にくいため、高音のテノールは価値があり、声楽の世界では高音を競い合って出させるという歴史もありました。バリトンは多くの男声の音域に当たり、声楽をスタートするときはバリトンから始め、それから発声法や技術を学び、テノールやバスのコースに進んでいくケースもあります。
当教室主宰の著書「音楽教育のススメ(幻冬舎)」